NEWS&COLUMNニュース

2012/12/07 コラム

第4回 選手生命について考える

 

私は前職で他人様のフトコロ事情を数々見てきたが、お金のない所にはないなりの、ある所にはあるなりの、悩みが尽きないものだということを知った。毎年毎年、納 税額ゼロを更新し続けている「ない人」もいれば(この人、いったいどうやって食べているのだろうか!? と心の底から不思議に思ったものである。)、その一 方で「ある人」からは「毎日こんなに頑張って働いているのに、国は高笑いしながら半分持って行くんだよねぇ。」というため息混じりの言葉を何度か聞いたこともある。確かに、国側からしてみれば笑い出したくなるような驚きの納税額であった。

 

前回のコラムで、サラリーマン(給与所得者)と個人事業主(事業所得者)の違いについて少し触れた。サラリーマン(給与所得者)である限り、「ない」と愚 痴をこぼしつつも、60歳か65歳くらいまでは安定した収入を得ることができるため、どこか安心感のようなものがある。定まった収入があれば資金計画が立 てやすいため、毎月決まった金額を積み立てる習慣を身に付けやすいように思う。日本人が大好きな貯蓄する習慣は、ひょっとしたらサラリーマンが根付かせた ものなのかもしれない。その一方で、個人事業主(事業所得者)、とりわけスポーツ選手は、己の実力次第で大金を手に入れる可能性はあるが、たとえ今日 「あった」としても、明日も「ある」とは限らない。今回は、スポーツ選手自身の税金に関する豆知識と、セカンドキャリアについて取り上げてみたい。

 
日本では、お金の話題はタブー視されていて、大人から子供に伝えたり教育することがあまりにも少ないように感じる。最近の20代、30代の方々は、日本の 将来に不安を覚えて、むしろしっかり貯蓄をしているのかもしれないが・・・、いろいろなスポーツ関連の本を読むうちに、私はスポーツ選手に対しては、特に 若いうちからお金の面での教育をすべきであると思うようになった。選手生命はサラリーマンと違って60歳、65歳までは続かないからである。現役引退後の セカンドキャリアと、大金を手に入れた際の対処方法を若いうちから教育しておけば、やがてやって来る現役引退に向けて、多少なりとも不安が払拭できるのではないかと思う。

 

身近な税金で例を挙げてみよう。前回のコラムで取り上げた確定申告の復習になるが、所得税は国に納める税金で、合計所得金額(儲け)に対し5%~40%の 税率で納税する。それに対し住民税は、1月1日時点で居住している市区町村に一律10%の税率で納税する仕組みになっているが、このふたつの税金の決定的 な相違点は、納税する時期にある。

 

 
住民税の支払い時期については、例えば平成24年の年税額が確定申告(平成25年3月15日提出期限)で決定した後、平成25年6月・8月・10月・平成 26年1月の4回に分けて納税することになる。{図参照}引退時の収入が高額であればあるほど、翌年の住民税の納税資金は確保しておかなければならない。

 
納税資金を確保しておく、具体的な対処方法であるが、
(1) あらかじめ納税資金用の口座を開設しておく。
(2) 税金の支払い時期の直前に合わせて、定期預金等が満期を迎えるような積立をしておく。(税理士に相談して、あらかじめ納税予想額を教えてもらい、毎月の貯蓄額を決めておくと良い。)
(3) 税金の支払いはうっかり忘れると延滞金がかかってくるので、あらかじめ自動引き落としの手続きを取っておく。
以上3点がお勧めである。住民税と同様、所得税にも自動引き落としのシステムがあるので、確定申告書を提出するタイミングで、一緒に自動引き落としの手続き書類も提出しておこう。

 
次にスポーツ選手のセカンドキャリアについて。現役選手にむかって「引退後のセカンドキャリアについて話をするなんて、縁起でもない!」と言うことなか れ。ごく一部の幸運なスポーツ選手には、監督やコーチとして、あるいはTV解説者としての道があるかもしれない。場合によっては、所属チームに正社員雇用 される道が残されているかもしれない。だが大半の選手は周囲からの充分なフォローがないまま、現役生活を終えることになる。しかも、現役を引退する時期 を、選手自らが決めることができるのは、これもまたごく一部の幸運な選手に限られたことであろう。

 
現役引退した選手の末路が、哀しいものであることが世に明らかになれば、子供達が「○○選手のようになりたい!」といって後に続くこともなくなり、日本の スポーツ業界に明るい未来はないであろう。これには子供の頃から、いや、遅くともスポーツ選手としてのキャリアをスタートさせた頃からの教育が大切で、ス ポーツ選手ならば、いつかは引退する(しかも若くして)ことを想定して、
 
A.セカンドキャリアのための語学勉強や、なりたい職業について考え、準備しておく
B.引退時点でいくらくらいお金を残しておくべきか?想定して貯蓄しておく
 
少なくともこの2点は重要であると思う。では、いったい誰が教育するのか?私はFPや税理士等の専門家に加え、チーム側のフォローが必要なのではないかと思う。できれば、定期的に説明会を開くなどの機会を設けられてはいかがであろうか。
 
一度グレードの高い生活を送ると、なかなか人間はその生活がやめられない。突然収入が下がっても、いきなり相応の生活水準に下げることは困難である。華々 しい現役生活を終えた後、どのような人生を歩き出すかは、もちろん本人次第であるとは思うが、親身になって相談に乗ってくれるバックアップ体制があるかな いかで、その後の人生に大きな影響を及ぼすことは想像に難くない。)

 

RSS


・木村 仁美
・1970年10月1日生 大阪生まれ B型
・15年間税理士法人での勤務経験あり
・スポーツ業界は完全な素人&運動音痴
[趣味]
ハイキングと昼寝
[目標]
自分の経験を生かし、スポーツ業界で働くみなさんのお役に立つこと
台湾の阿里山に登ること