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2012/11/09 コラム

第2回 損益計算書の見方

 

私は長年、税理士法人でクライアント様の財務諸表を見せていただきながら、その会社の経営を見つめ続けてきた。一介のサラリーマンでありながら、日常的に話をする相手が社長さんであることが多かったため、経営者の視点で物事を考えるクセが自然に身についてしまった。今回のコラムでは、財務諸表の中でも特に「損益計算書」を取り上げ、とあるクラブチームの経営を「数字から」見つめ、できるだけ分かり易く、スポーツ業界で働く方々にお伝えしてみたい。普段の仕事現場とは少し違った視点から物事を見つめることにより、経営者の気分をほんの少し味わっていただければ幸いである。

 

「有価証券報告書」を見たことのある人が、いったい何人いるであろうか。そもそも上場企業でもない限り、己の台所事情を外部に向けて情報発信する必要はまったくない。おそらく自分が働くクラブチームの、第○○期の売上高や、第△△期の当期純利益(もしくは当期純損失)を知る人は少ないのではないであろうか。ところが、今回取り上げるクラブチームは未上場にもかかわらず、半年に一度、きっちり自らの台所事情を「有価証券報告書」を開示することにより情報発信している。将来の上場を見据えた準備行動とも受け取れるが、従業員わずか30名足らずの規模の会社で、この有価証券報告書を作成してしまう(書類作成を監査法人に依頼した場合、高額な費用がかかるうえに、現場スタッフの事前準備のご苦労が目に浮かぶのである・・・)経営者の聡明さと意識の高さに、心から敬意を表したい!!

 

下記の図1は、そのクラブチームがHP上で発表している有価証券報告書、「損益計算書」の一部である。67ページにわたり、一年間の経営内容について詳しく報告されている。このクラブチームはひとことで言うと経営状態が大変厳しく、平成23年12月31日時点では「債務超過」に陥っている。悪い情報を外部に向けて発信するのは、大変勇気のいることだと思う。

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このクラブチームの、平成23年1月1日~平成23年12月31日の一年間の総売上高は約13億円(前年同期比14.5%)であった。みなさんご存知のとおり、平成23年3月11日に東日本大震災が発生した年である。地域的にも地震の直接的被害や電力供給の制約を受け、大打撃のあった一年であったと有価証券報告書に記載されている。震災後の観光客減少や円高の影響もあり、周辺地域の経済状況は低迷していた。

損益計算書とは、一定期間の「売上―経費=儲け」を表した成績表のことである。昔よく見ていた一般企業の「売上高」は通常1本~2本の表示であることが多かったが、スポーツ業界での「売上高」は、主催試合のチケット販売、企業の広告料収入、グッズ販売、リーグ配分金等々、意味合いの異なった収入が複数あるため、部門管理して経理処理していると考えると良い。

このクラブチームの売上高は、①興行収入②広告料収入③商品売上高④リーグ配分金収入⑤その他の売上高の五つの部門に分かれていて、②の広告料収入以外の四つの部門で、前年同期比を上回っている。唯一、売上高がダウンした②の広告料収入は、チーム成績よりむしろ景気の影響を大きく受けるため、震災の影響から企業側に広告料を捻出する余裕がなかったことを印象付けている。[図2]

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①の興行収入に関しては、リーグ戦前半で成績が振るわなかった点や、震災で3試合が延期となった影響を受け伸び悩んだが、リーグ戦後半に大きく持ち直し、結果的に興行収入は310,544千円(前年同期比1.7%)アップした。

次に特筆すべき点としては、⑤その他の売上高の411,898千円である。この金額は前年同期比191.3%とほぼ倍増している。中身は何かというと、自チームと契約期間中の選手を他のクラブチームに放出した際に受け取ることができる移籍金収入である。

この金額が売上高全体の約32%を占めている。これの意味するところは、仮にこの移籍劇がなければ、平成23年12月期は大幅な赤字に陥っていたことになる。

全体の売上高から原価をマイナスし、ランニグコストを引いた「営業利益」が赤字になっていることも問題であろう。営業外利益以降、下の科目で幸いなことに利益が出たため、かろうじて全体で当期純利益を計上できている。

そして、多額の移籍金収入があったにもかかわらず、残念ながら債務超過の現状を解消するにはいたっていない。(債務超過であるかどうかは「損益計算書」では分からない。「貸借対照表」という資料を見ると、ひと目で分かる。)

有力選手を放出すれば移籍金収入は上がるが、翌シーズンの成績が低迷する可能性がつきまとう。この点を見ると、難しい経営判断であったのではないかと推察できる。

ただ、もうひとつ特筆すべき点がある。これを見た時、本当に驚いた。えっ??役員報酬が2人にしか支払われておらず、しかも年間たったの480万円・・・。ひとり当たり、月20万円の報酬・・・。このクラブチームを愛していなければ、到底、無理な金額であろう。

自分の仕事が好きか?自分の仕事に誇りを持っているか?自分のクラブチームを愛しているか?愛社精神という言葉は好きではないが、ポジティブな気持がある限り、仕事の現場が多少しんどくても、楽しく働けるのではないかと、私は常々思っている。スポーツも仕事も、肉体の限界にチャレンジする世界であると同時に、気持ちが伴わないと継続させることが難しい世界であるようにも思う。そして時折、冷静に自分を見つめる作業が重要なのではないかと思う。

 

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・木村 仁美
・1970年10月1日生 大阪生まれ B型
・15年間税理士法人での勤務経験あり
・スポーツ業界は完全な素人&運動音痴
[趣味]
ハイキングと昼寝
[目標]
自分の経験を生かし、スポーツ業界で働くみなさんのお役に立つこと
台湾の阿里山に登ること