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2014/01/17 コラム
第31回【長野県】ソチオリンピックの前に、SWANプロジェクトって知ってる?
■長野県の位置と周辺環境
今回のスポーツマネイジメントコラムは、信州は長野県を取り上げたい。普段はプロスポーツチームと自治体の関わりについてコラムを書いているが、今回、そして次回に関しては、来月開催されるソチオリンピックにちなんで、アマチュアの世界を覘いてみたい。1998年、冬季オリンピックの舞台となった長野県が、どのように子ども達の可能性を引き出し、将来のオリンピック選手を育成・強化しているのか調べてみることにした。
長野県と聞いてイメージするのは、個人的には日本アルプス(数々の百名山)、ウィンタースポーツ、軽井沢に代表される避暑地・・である。日本アルプスを擁し、大部分が山岳地帯となっている内陸県のため、全国で4番目の面積(13,562km2)でありながら、居住可能な地域は限られており、人口は全国で15番目である。
気候は、大半が内陸部特有の中央高地式気候であるが、長野盆地や白馬岳麓といった北部では、日本海側気候の特徴が見られる。
■長野県の人口とスポーツの分布
長野県の人口は約212万人(2013年4月1日現在、長野県公式HPより)、そのうち15歳未満人口が284,972人(13.5%)、15歳以上65歳未満人口が1,238,371人(58.5%)、65歳以上人口が318,490人(28.0%)世帯数は804,920世帯(2012年総務省統計局HPより)である。
長野県の人々が自ら好んで行うスポーツとしては、第1位のウォーキング・軽い体操、第2位の水泳、第3位にスキー・スノーボード、第4位は器具を使ったトレーニング、第5位に登山・ハイキングとなっていて、スキー、スノーボードや登山、ハイキングは、長野県の持つ豊かな自然とスポーツの楽しみが一致した様子を如実に表していると思う。
■広域関東圏である長野県に本拠地を置くスポーツチームは多数
長野県に本拠地を置くスポーツチームは以下の通りである。プロ、アマを問わずチーム数がかなり多いことに驚いた。東京―長野間は約240Km、移動時間にして3時間。長野県を広域関東圏であると考えれば、長野県にスポーツチームが多いのは、自然なことなのかもしれない。都市部になればなるほど娯楽の選択肢が増えるため、観客動員数に伸び悩むことがあるが、選手の移動のし易さの点では、地の利の良いことは長野県にとっての大きな強みといえる。
- 松本山雅FC (松本市・Jリーグ)
- AC長野パルセイロ (長野市・Jリーグ)
- AC長野パルセイロ・レディース (長野市・日本女子サッカーリーグ)
- 信濃グランセローズ(プロ野球独立リーグ)
- 信州ブレイブウォリアーズ (千曲市・bjリーグ)
- ボアルース長野(長野市・北信越フットサルリーグ)
■長野県からソチオリンピックに出場する選手は18人
今回のコラムはプロチームではなく、オリンピック選手(アマチュア)に対する長野県の支援のあり方について書こうと考え、まず長野県に電話をかけてみた。そこで得た、いくつかの情報をご紹介しよう。
来月のソチオリンピックに出場する選手は長野県からは18人とのことで、そのうち長野県で生まれ育った選手は約半分らしい。残りは大人になってから長野県内の名門実業団チームに所属し、ソチオリンピックに出場する選手である。
長野市に本社を置く中堅ゼネコン、北野建設はスキーやジャンプ競技において多くのオリンピック選手を輩出しており、諏訪郡に本社のある日本電産サンキョーは、スケート競技で多くの選手を世に送り出している。
■長野県の支援
では、長野県とオリンピック選手の関わり方はどうだろうか。実際には県がオリンピック選手一個人を支援するシステムは取っておらず、スキー連盟やスケート連盟といった団体に、選手の海外遠征費用として平成24年度に800万円、平成25年度に500万円の資金を拠出しているとのことであった。
1998年の長野オリンピックの後、県内に残された施設や、プロの指導者というお宝は残っているし、長野オリンピック終了とともに今後の選手育成も終了してしまったわけではない。
■SWANプロジェクトについて
そこで、平成21年度から長野県体育協会主導のもと、SWANプロジェクトという活動が始まった。これは冬季スポーツ(スキー、スケート、スノーボード、カーリング、ボブスレー、リュージュ、スケルトン)において、将来のオリンピック選手を育成することが目的のプロジェクトである。
大きく分けると、小学生と高校生のチームに分けて選手育成のためのプログラムが組まれている。ひとつ目のグループは、小学校4年生から6年生の3年間で選抜を行い、教育プログラムは中学校卒業まで行う。そしてもうひとつのグループは、高校生以上を対象としており(年齢制限はない)、4年以内で選手育成を終えるシステムである。
毎年、70~80名の応募者の中から、2度の選考会で未来のオリンピック選手を選抜し、対象者を17、8名に絞る。このプログラムには長野県民だけを対象としているわけではなく、通える範囲であれば、近隣県の子どもでも参加可能だそうだ。
そしてめでたく対象者に選ばれると、月に2度、外部から専門の講師陣が招かれ、フィジカルトレーニング法や栄養学、語学やメンタル面強化の共通プログラムの提供を受けることができるのだ。
子ども達の発達段階に応じたプログラムが組まれ、ここから世界を目指す子ども達が、アスリートが生まれる仕組みとなっているのだ。
これは平成21年度に開始されたプロジェクトなので、このプロジェクトから世に送り出されたオリンピック選手はまだ現れていないが、10年、20年先の計画で選手育成を行えば、当たり前のように世界で戦える選手が今後、誕生するだろう。
■オリンピック選手が現役引退した後
また、このようなプロジェクトは、現役を引退した選手の雇用の場を広げることにもなるだろう。リュージュやスケルトン、ボブスレーやカーリングといえば、オリンピックの時期にテレビで観るだけの人が多いことと思う。
マイナースポーツといえども、引退した選手のキャリアが継続し、次世代に循環するシステムを作れば、細々としていても、競技種目が途絶えることはないだろう。スポーツの一番の良さは、する者には目標を与え、観る者には夢を与えることなのだ。