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2013/03/22 コラム
第11回 スポーツ選手のセカンドキャリア考察
スポーツ選手のみなさん、無事にご自身の確定申告は済まされたであろうか?今にして思えば前職(税理士法人勤務)時代は、会計事務所向け専用ソフトを与えられ、実に恵まれた環境でクライアント様の確定申告書を作成していた。専用ソフトは非常に便利なもので、ひとつの情報を一箇所に入力すると、その情報が必要な他の場所に勝手に飛んで行って表示され、確定税額もリアルタイムで計算されていく。だが、さすがに今年からは以前のような便利なソフトはないし、実際に申告作業を始めるまでは、いったいどうしたものか・・・、超アナログながら手書きの申告書を作るか?と思案していた。ところが、ほどなく国税庁の確定申告作成サイトが素晴らしく進化している事に気づいた。ほぼ、税理士法人時代に使っていた専用ソフトと遜色ないくらい、いや、ひょっとすると専用ソフトを上回るわかり易さと親切さで税額計算できるではないか。これなら初めての人でも、ほぼストレスなく確定申告書が作成できる。やるなぁ、国税庁!!まるで浦島太郎のような己を恥じつつ、かなり税務署を見直した。
今回の会計コラムは、面倒な確定申告から解放され、やれやれ・・・、となっているスポーツ選手のみなさんに向けて、「スポーツ選手のセカンドキャリア」について論じてみたいと思う。これは第4回の会計コラム「選手生命について考える」で少し取り上げたテーマであるが、もう少し掘り下げてみたい。
スポーツ選手のみなさんは、プロとアマの一番の相違点は何であると思われるであろうか?最近はプロスポーツ選手がオリンピックに出場するなど、プロとアマに明確な区切りがあるとは言い難いが、Wikipediaによると、「プロはスポーツを職業として報酬を得ている人のこと、アマはスポーツを職業とせず、なおかつ報酬も受け取っていない人のこと。」となっている。これをmusica labの会計コラム風に言い替えると、プロはフリーのスポーツ選手(個人事業主)として生活の糧を得ている人、そして社会人選手として企業に属しながら競技生活をするサラリーマン(給与所得者)ということになろうか。
一方、純粋なアマチュア(無報酬)の領域で活動している競技者は、言葉は悪いが、マイナースポーツに多いように思う。今日、高度な技術を要するスポーツが増加したことにより、国やスポーツチーム、そして企業のバックアップなしには、スポーツ選手個人の技能を超一流の領域にたどり着かせることが難しくなったためである。
スポーツ選手のほとんどは、幼少期から人並みはずれた体力や運動神経に恵まれ、周囲から羨望の眼差しで見られていたことと思う。次第に本人も「自分は普通の人とは違うのだ」という自覚を持ち始め、これがプロ意識の芽生えとなってくるのではないかと思う。おそらく学生時代はスポーツ一直線、晴れてプロスポーツ選手になってからは、さらに競技に邁進する生活を送ることになろう。「普通の人」が経験する大学への進学や、就職活動などを考えられないまま、もしくは経験しないまま、10代後半から20代前半を過ごすプロスポーツ選手が多いのではないであろうか。類まれなる能力を持って生まれたがゆえに、「普通の人」が経験することをスルーしてしまうのだ。
このように現役時代は競技に集中し、プロ意識を持ちながら生活すると、イザ引退となった時、セカンドキャリア(引退後の仕事)に対する準備が満足にできていないケースが多いように思う。自分の引退時期を、プロスポーツ選手自身で決断できるケースはごくまれで、それができる人は非常に幸運な事例といえよう。突然のケガや所属チームからの戦力外通告で、プライドをズタズタにされることもあるのではないかと思う。
一昔前のプロ野球選手やお相撲取りなどは、引退後は飲食店を経営するもの、といった印象が強かった。実際、2013年のある統計によると、若手プロ野球選手が引退後に希望する職業は約18%が飲食店経営だという。飲食店経営には多額の設備投資(店舗内装にかかる費用)が必要で、日々の経営では、必要最小限の原価計算(飲食店の原価率は40%以内に抑えるのが理想とされる)ができないと、従業員の給与はおろか、家賃の支払いまでもが難しくなる。プロスポーツ選手時代の人気が、飲食店経営というセカンドキャリアに必ずしも反映されるわけではないので、独立後の経営ノウハウや会計に関する知識は必ず持っていなければならない。
日本のスポーツの成り立ちは学校教育から生まれているため、個人の人格形成には非常に好ましい影響を与えるが、人として逞しく生きるノウハウは学校では教えないので、引退後の就業環境が整わないと、路頭に迷うことが多い。
ところで、海外のプロスポーツ選手の多くは、引退後、どのような職業を選んでいるのであろうか?アメリカのプロバスケットボール選手の約6割が引退後5年以内に破産しているそうだが・・・、ヨーロッパでのセカンドキャリア事情は比較的、問題が少ないらしい。
a.大学生活と競技者生活を並行→引退後、第二の職業選択
b.軍隊や警察、消防士等の国家公務員として働きながら現役生活→引退後2~3年の猶予期間を経て資格取得→第二の職業選択
上記a.b.が大半のようである。(筑波大学:セカンドキャリアプロジェクトHPより)
2足のワラジを履くことは、実際には難しいのであろうが、冷静に将来を見据え、人生の終着点をどこに見定めるかによって、その心構えが変わってくる。ヨーロッパでは文化としてスポーツが発展したため、人生の一部にスポーツが組み込まれている。そのためプロスポーツ選手の引退後、生きて行くための選択肢は比較的多くなる。
アメリカの場合は、スポーツをビジネスと捉えているため、現役生活時代の華やかさを忘れられず、引退後、窮地に陥る場合が散見されるのではないか。
近年、プロスポーツ選手向けのセカンドキャリアを応援する企業や、大学の研究機関が生まれ始めている。プロスポーツ選手にとっては縁起でもない話ではあるが、現役時代から引退後の生活プランを練っておくことは非常に大切で、それをサポートしてくれる機関の存在は、これからのスポーツ界に重要なポジションを締めると考えられる。
次回の会計コラムでは、引退後に希望する職業、第2位のスポーツ選手→チームマネジメントの世界への転身について、考えてみたい。今回は会計コラムから逸脱してしまったが、そのうち戻ります・・・。
・木村 仁美
・1970年10月1日生 大阪生まれ B型
・15年間税理士法人での勤務経験あり
・スポーツ業界は完全な素人&運動音痴
[趣味]
ハイキングと昼寝
[目標]
自分の経験を生かし、スポーツ業界で働くみなさんのお役に立つこと
台湾の阿里山に登ること